工大祭2015に参加しました!
見学に来てくださった皆様、ありがとうございました!
工大祭2日間、それはとても過酷でした。10時から17時まで、昼食をとらずにひたすら展示物の説明をしていました。徐々に喉から痛みが感じられるようになり、終盤では声がちゃんと出ていたのか定かではありません。でもしょうがないじゃないですか〜。だって楽しいんだもん。いろんな人と話せるのが。
来てくださったお客さんは、それはそれはいろいろな人でした。受験を控えた高校生、やたら考察が鋭い小学生、物理学の専門家、物理学科のOBなどなど。特に嬉しかったのは「幸福の物理ブログを読んでいます」と言ってくれた人です!身内以外にこう言ってもらえるなんて、心の中で感涙していました。いえ〜いみてるぅ〜?
お客さんの中にはとても考えさせる質問や意見をする方がいて、大変勉強に、そして励みになりました。後日まとめたのをブログに書こうかと思います。
幸福の物理に新たに2人が加わった!
物理学への道を志す期待の新星が2人加わりました!
仲間が加わって私はとても嬉しいです。2人とも大変に意欲的で、工大祭展示に向けて積極的に活動していました。
2人の展示は「Fermi-Pasta-Ulamシミュレータ」と「Liquid Film Motor」でした。簡単ですが紹介します。
Fermi-Pasta-Ulamシミュレータ
Fermi-Pasta-Ulam問題とは、「1次元調和振動子に高次の非線形項を加えた系を用意して、初めにある1つのモードにエネルギーを与えたらどうなるか」というお話です。一言で言えば、「非線形相互作用する格子点のエネルギー分配」問題です。普通に考えれば、十分な時間が経過した後には最初に与えたエネルギーがすべてのモードに等分配されると思います(エルゴード性とか熱力学的平衡状態とか)。しかし、不思議なことに、再び最初のモードに戻ってしまったというから問題になりました。このFPU問題は後にソリトンと関連した現象であることが分かりました。物理学的に、そして計算機が活用された例として、とても面白い問題です。
このFPU問題のシミュレータに取り組んだ子は、なんと原論文*1を読むことから取り組みました!私が1年生の時は論文を参照するなんて考えもつかなかったです。すばらしい!
シミュレータですが、工大祭当日に見たところとてもヌルヌル動いてました。ぜひ、各振動子のエネルギー時間発展を見てみたいです。もうすぐ行われる研究報告会で発表してくれるかしら?とても楽しみです。
Liquid Film Motor
Liquid Film Motorとは、「電流の流れているシャボン膜に電場をかけたら回転する現象」のことです。例えばここを参照。
回転素子が流動性に優れていたり、大きさを小さくできるなど、工業的にも注目されているっぽいです。
このLiquid Film Motorは、私が以前rogyゼミで話した「やってみたいこと一覧」の一つでした。テーマ選びの参考になったみたいでよかったです。shitaro-happy-physics.hatenablog.jp
Liquid Film Motorに取り組んだ子も、Liquid Film Motorのレビュー論文を読むことから取り組み始めました。すばらしい!
実験装置ですが、工大祭当日に見たところシャボン膜がくるくる回転していました。実は前日まで上手くいかなかったのですが、2人でいくつかディスカッションをして解決したようです。これもぜひ研究報告会で発表してほしいなあ。
今年のマイ・テーマは「非線形」
さて、自分の展示物について話します。今年は自身の研究と絡めて「非線形」をテーマに展示しました。具体的には
- カオス回路
- 3重振り子
でした。3重振り子については今年で3年目の展示になります。幸福の物理の原点です。この振り子の概形は過去の記事を参照してください。shitaro-happy-physics.hatenablog.jp
ここでは新しく取り組んだカオス回路について述べます。
2種類のカオス回路
工大祭展示に向けて作成した回路は「Lorenzモデル」と「Chua回路」です。いずれもカオス理論の分野では有名なモデルです。
Lorenzモデル
気象学者の方のLorenzが大気変動モデルとして考案したのがこのLorenzモデルです。大気の熱対流を表すNavier–Stokes方程式を変形することで得られるLorenz方程式は、もはや現実の大気の熱運動と対応することができなくなっていますが、自然現象をモデル化したためにカオスが抽出されたことは大変興味深いことです*2。
Lorenz方程式に従う時間発展の軌跡は、適切なパラメータのもとでは下図*3のようなアトラクタを描きます。
回路を作成するときは、Lorenz方程式をそのまま演算回路に置き換えます。ここで問題なのが変数同士の積。いろいろ調べましたが、アナログ乗算器IC(AD633)を使う他ありませんでした。これが1個約1000円でとても財布にやさしくない…。ブレッドボード上で動作確認したときの動画を載せます。www.youtube.com
Chua回路
回路構成が単純で安価に作成できるのがこのChua回路です。いろんな人がこのChua回路を作っているので資料が豊富です。Chua回路のキモはChuaダイオードと呼ばれる非線形素子にあります。このChuaダイオードを考えなければただの発振回路ですが、この非線形素子があるおかげでカオスが現れます。
実際にMATLAB上でストレンジアトラクタを確認してみました。ダブルスクロールと呼ばれる、2つの円盤が上下に現れるのが特徴です。www.youtube.com
自前のアナログオシロスコープ動作確認したときの動画がこれです。www.youtube.com
大変盛況であった
今回は予め相手がするであろう質問をいくつか想定して展示に臨みました。参考文献を載せます。titech-ssr.blog.jp
一番多かった声が「とてもわかりやすいプレゼンだった」でした。準備した甲斐がありました。めっちゃ嬉しかった。来年もがんばるぞ!
これからやりたいこと
研究報告会に向けてやりたいこととしては「カオス同期」です。カオス回路同士をワイヤーでつなげると同期するという現象が知られています。本当にそれが実現できるのか、研究報告会までに確認しまとめたいと思います。
*1:E. Fermi, J. Pasta and S.Ulam, Studies of Nonlinear Problems, Los Alamos Report LA-1940 (1955)
*2:当然「大気変動は本当にカオスなのか?」という健全な質問が出てきますよね。これ、工大祭当日も聞かれました。答えは分かりません。いまだ大自由度系のカオスを実験的に解析する手法は確率されてないし、ましてや決定論的でないノイズ成分を含む大自由度系の解析なんて……。近い将来、私がこの問題を解決できればいいなあ、と。