物理学科 冬の談話会&忘年会に参加した 〜超弦理論から伺える物理への姿勢〜
おしながき
この記事では物理学科冬の談話会と物理学科忘年会で聞いた話を自分なりに解釈してみることを試みます。今回ちょっと文章量が多くなってしまったので目次もどきを。
- 今度は基礎物理!
- 高度な物理学科ネタ解釈
- 物理学科忘年会!
- 理論系は人間だった!?
今度は基礎物理!
五ヶ月前は平原氏による「物理学科 夏の談話会」が行われました。
物理学科 夏の談話会に参加した - 幸福の物理
この談話会、夏と冬の2回行われます。どうやら分野がダブらないように行われているようです。そして今回は今村洋介氏による「弦理論とM理論」が本館H111で行われました。
↑会場
http://www.phys.titech.ac.jp/news_detail.html?C1021/D2759
↑談話会の概要(スクリーンショット)
高度な物理学科ネタ解釈
要約:今、M5が熱い
...ナンノコッチャって感じですが私にも何がなんだか。まあフンフンなるほどなって理解してたらとっくに研究してます。
内容はともかく、重要なキーワードがいくつか登場しました。それらは弦理論に限らず物理学を研究するにあたって通じるものがあると思いました。だから以下で一つずつ考えていきます。
高度な物理学科ネタ1:困ったら次元を上げろ
よく、この世界は11次元で構成されているなんて聞きます。綺麗に一つにまとめようとした結果、11次元という大きな次元になった、らしい。
例えば古典電磁気学はベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルが登場しますよね。ここまでは3次元空間です。で、特殊相対性理論では時間も含めることで、それまで別のものであったベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルが一つのテンソルとしてまとめられます。この時、3次元空間から4次元時空へと次元が一つ上がりました。次元を大きくすることで違うものが実は同じものだったと気づけるようになったワケです。
つまり、物事を上から俯瞰しようって話です。これは物理に限らず日常生活にも言えますよね。山の頂きから見下ろすと見通しが良くなる。
さらにもうひとつの利点は次元によって隠れていた物理現象が見えることです。
例えばIsing模型は1次元では相転移が生じず、2次元以上では相転移が生じることが知られています。また、2次元以下ではBECが生じず、3次元で初めてBECが生じます。他にも1次元の束縛状態ではエネルギー固有値は縮退が起こり得ず、2次元以上では縮退が生じ得ます。まだまだ次元による例はたくさんありますが、いずれも次元を大きくすることで面白い物理が見えるのがポイントです。*1
まとめ:困ったら次元を上げろ。すると見通しが良くなり、低次元に隠れていた物理が見えてくる。
高度な物理学科ネタ2:双対性
双対性とは一見違うものに見えるが実は同じものであるという性質のことです。
談話会に登場した例をここで取り上げます。次の「碁盤上最短経路問題」を考えます。
点Bから点Aまで最短で進める道順は何通りあるでしょうか?という問題。これは高校生ならもちろん、どうやら中学受験でもおなじみの問題です。この問題は左向きの矢印と上向きの矢印の重複を許さない並べ方に帰着されます。
つまり、回答は以下の通りです。
点Bから点Aまで最短で進む道順は横一列に並んだ8個の箱から3個(5個)選んで上向きの矢印(左向きの矢印)を入れる方法に等しく
\begin{eqnarray}
_{8}C_{3} 通り
\end{eqnarray}
である。
では次に「8個のエネルギー準位に対して3個のフェルミオンが取りうるエネルギー状態はいくつあるか?」という問題を考えます。
これは高校生でも馴染みのない問題です。しかも直前に考えた「碁盤上最短経路問題」とは全く違う問題に見えます。でも答えは
\begin{eqnarray}
_{8}C_{3} 通り
\end{eqnarray}
です。なんと、答えが一致しました。これは偶然の一致ではありません。フェルミオンは2個以上同じ状態を占めることができませんから、8個のエネルギー準位という箱から3個選んでフェルミオンを入れればいいのです。そう、「碁盤上最短距離経路問題」と「フェルミオン分配問題」という2つの問題は本質的に全く同じだったのです。
このことから2つのことが言えます。一つ上の立場から俯瞰することで一見異なるようにみえる問題が全く同じ問題であると分かる。逆に言えば同じ問題に対して違うアプローチの仕方が存在するとなります。なんだか当たり前のことに聞こえます。でもなかなか実践するのが難しい。
で、素粒子理論の人たちはブレーンという膜のようなナニカに関する問題をヤン・ミルズ理論とブラックホールの熱力学の一見すると全く違うアプローチで挑むそうな。これをAdS/CFTと呼ぶらしい。なんだか難しそうだけど、実はごく自然な考えだったのですね。
まとめ:見た目が違っても実は同じだったりする。それは上から俯瞰して初めて分かる。
物理学科忘年会!
1時間に渡る濃い内容の談話会が終了し、我々は引き続き本館にある忘年会会場へと向かいました。食べ物をつまみながら教員や学生と交流を深めました。
↑良い一年になりますように、乾杯!
↑サンタクロースに扮した配達員が持ってきたピザ
理論系は人間だった!?
この談話会の醍醐味は普段合う機会のない院生と交流できることです。研究室のぶっちゃけ話や教員のアレコレを知るチャンスです。そもそも東京工業大学理学部物理学科*2では縦とのつながりやつながる機会がほぼないのです。私が院に進んだら後輩との交流の機会を設けたいと密かに思っています…。
で、今回はとある物性理論系研究室で日夜研究に励んでいる院生の方から普段の過ごし方などを聞きました。
驚いたのが理論系も人間だったという事実です。つまり、偉人のような全知全能でなくても理論系はつとまるということです。
理論系は数学に強くなければならないと勝手に思っていたのですが、研究室に入ってからもしばらくは修行を積むそうです。また、成績は理論系の適正を判断する材料とはならないとも。少し前に読んだ、学生時代をどう過ごすか(京都大学 篠本滋氏)の内容そのままでした。
つまり、物理現象から普遍なものを抽出して普遍性のある議論に興味があるか否かが理論系研究室への判断材料であって、決して成績や知識量だけでは判断できないということです。
なるほど、理論系の人たちも人間だったんだなあと安心しました(でもやっぱり宇宙人がいたり)。
└(՞ةڼ◔)」<出会いに感謝ァ~!