haphysics blog - 幸福の物理ブログ

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Twitterで見かけた積分を一般化してみた

問題の積分です

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あらすじ

今週月曜日、Twitterでとても興味深い積分を見かけました。
yujitomo.hatenablog.com
意外にも、これが適当な置換積分や留数定理では全然計算できない!
埒が明かないので、一旦休息をとろうと生協へと立ち寄ることにしました。

生協の書籍コーナーをぶらぶらしていると、興味深いタイトルの本が。

現代三角関数論

現代三角関数論

高校で習うあの三角関数に、意味深な"現代"という文字が修飾している。
気になって読んでみると、なんと三角関数が(よくわからないが)ゼータ関数に通じているではないか!

そして、この本によって偶然にもある等式に出会う。Raabe's formulaである。
ガンマ関数の対数積分するとは、(個人的には)なんと刺激の強いことか!
すぐに研究室に駆け込んで調べてみることに。
するとRaabe's formulaの節にBinet's second expression for logΓと呼ばれる積分が!
Gamma function - Wikipedia, the free encyclopedia
これは考えるべき問題の積分とそっくりではないか!
この公式を使って計算はできないだろうかと考えました。

そして、ついに計算できました。しかもある程度の一般化もできたのです。

本記事では、問題の積分を一般化した式と導出過程を簡単に紹介することにします。

出発はlog Gamma

まず、次の積分を導出します。
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なぜ、この積分を考えるかというと、問題の積分の形がBinet's second expression for logΓ(以下、Binetの公式と呼ぶことにする)
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に類似しているからです。

本節の積分は、このBinetの公式に対して
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と置くことで得られます。

特に、
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と置けば
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が、
f:id:shitaro2012:20160305173026p:plain
と置けば
f:id:shitaro2012:20160305172334p:plain
が、
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と置けば
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が、それぞれ得られます。

arctan(x^3)はarctan(x)の和

arctan(x^3)は次のように表せます。
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この式が本記事のキモであり、個人的に興味深いと思った、自信のある等式です。

この等式を思いついた理由は以下のとおりです:
問題の積分をBinetの公式に帰着したい。そのためにはarctan(x^3)をarctan(x)になおす必要がある。だからarctan(x^3)を(無理矢理にでも)arctan(x)で表そうとしました。
さて、問題の積分を部分積分すると
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という微分が現れました。そう、arctan(x^3)を微分すると1/(x^2+1)で部分分数分解できるのです!
つまり、arctan(x^3)の微分arctan(x)の和の微分で表せることにここで気づいたのです。実際、
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なので本節の等式は成り立ちます。

問題の積分

上二節の結果を用いて問題の積分を計算します。
極限
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(ただしa>0)より、部分積分を2回実行することで
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と計算できます。よって、冒頭の式
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が得られました。

より具体的に


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のlogΓΓを具体的に書き換えたくありません?実はnを偶奇に分ければ、複素数を使わずに表現することができます。

ΓΓから、直ちに式
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を使えば計算できそうだなあと予想できます。

n=2m+1の場合(m=0,1,2,...)

ΓΓは、式
f:id:shitaro2012:20160305234143p:plain
より
f:id:shitaro2012:20160305234307p:plain
となります。

このうち、ΓΓの部分は式
f:id:shitaro2012:20160305234545p:plain
から、
f:id:shitaro2012:20160305234724p:plain
が得られます。

一方、総乗は2m個の積を(x-a)(x+a)の形になるように並べ替えることで
f:id:shitaro2012:20160305234842p:plain
と計算できます。

したがって、求めるΓΓは
f:id:shitaro2012:20160305235002p:plain
となります。

n=2mの場合(m=1,2,...)

ΓΓは、式
f:id:shitaro2012:20160305234143p:plain
より
f:id:shitaro2012:20160305235524p:plain
となります。

このうち、ΓΓの部分は式
f:id:shitaro2012:20160305234545p:plain
から、
f:id:shitaro2012:20160305235823p:plain
が得られます。

一方、総乗は2m個の積を(x-a)(x+a)の形になるように並べ替えることで
f:id:shitaro2012:20160306005346p:plain
と計算できます。

したがって、求めるΓΓは
f:id:shitaro2012:20160306005456p:plain
となります。

複素数を使わない表示

というワケで、偶奇で場合分けをすれば、積分
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は次のように表すことができます。

n=2m+1の場合(m=0,1,2,...)

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n=2mの場合(m=1,2,...)

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特にn=1,2の場合

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n=1の場合の結果は、確かにyujitomoさんの答えと一致します。
また、n=1,2の場合における積分は、例えば公式集、Table of Definite and Infinite Integralsのp.94に答えだけ載っています。*1
だから本記事で示した、一般化された例の積分は多分合ってるんじゃないかなあと。

謝辞

とても奥の深い積分を我々に提供してくださったyujitomoさんに感謝します。
特に、ガンマ関数がこれほどまでに表情豊かであることを知れてとても興奮しています。
本当にありがとうございます。
それから、検算に付き合ってくれた、私と同じ研究室に所属するTypolice氏に感謝します。

*1:内部生向け。この本はチーズケーキにあります。Table of definite and infinite integrals | 東京工業大学附属図書館 蔵書検索 (OPAC)。 というか、かなりの数の公式集をあたったが、n=2まで載っている本はこの本以外に見当たらなかった。 ちなみに、この本はタイプライターで書いたようなレイアウトなので、とても見づらい。