幸福の物理

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【新歓展示に向けて】Merritt et al. 4-coil~イチヨウは作れる~No.1

おしながき

 今回の記事の内容は以下の通りです:

  • Merrittコイルの紹介
  • Merrittコイルがつくる磁場の導出
  • Merrittコイルがつくる磁場のシミュレーション(結果のみ)

一様磁場発生装置は様々

 「一様磁場」・・・。しばしば見かける物理の問題設定の一つです。一様磁場を良い精度で作れる装置として、ヘルムホルツコイルが大学で初めに習う電磁気学で扱われます。以前、ヘルムホルツコイルについては幸福の物理、始動!? - 幸福の物理
で解説しました。ヘルムホルツコイルの機能を一言で言えば、「輪っかを二つ同軸上に並べれば輪っかの間ではおおよそ一様磁場が発生する機能」です。
 しかし、今回紹介するのはMerritt et al. 4-coilと呼ばれる*1コイルです。ここでは便宜上、Merrittコイルと呼びます。
 Merrittコイルとは、ヘルムホルツコイルの改良型であり、一様磁場を発生させる機能を持っています。その概形は、正方形の形をした4つのコイルが同軸上に並べられているというものです。Merrittコイルの利点は次のように挙げられます:

  • ヘルムホルツコイルよりも広範囲に渡って一様磁場を発生させることができる。
  • 正方形という形状のため、円形のヘルムホルツコイルよりも作成しやすい*2

 このような利点を考慮して、私はヘルムホルツコイルではなくMerrittコイルを作成に決めました。

引用元

 しょっちゅう一様磁場という単語を目にするのに、その作り方を書いてくれている本が見当たりませんでした。もしかして、日本語で扱った書物はない?試しに英語でググると・・・検索に引っかかりました!比較的最近の文献なので、将来は本で見かけることになるかも?
 今回かなりお世話になった文献はこちらです。
Uniform magnetic fields and double-wrapp... [Bioelectromagnetics. 1992] - PubMed - NCBI
A Design of a Four Square Coil System for a Biomagnetic Experiment
双方ともに一様磁場について考察した文献です。その中でMerrittコイルについて触れています。

シミュレーター作成

 文献には実験値やシミュレーション結果が簡潔に掲載されてますが、自分で確かめたくなってしまうのが人の性。さっそくMerrittコイルのシミュレーターの作成にとりかかりました。

計算は「ビオ・サバールの法則」と「三平方の定理」だけ!

 大学で電磁気学を履修すれば、静磁場という単元で「電流が磁場をつくる」という物理現象を定式化したビオ・サバールの法則という道具、およびその道具を用いたいくつかの応用問題を解くはずです。
 今回求めたい、4つの正方形のコイルがつくる磁場を計算するためには有限の長さの直線電流がつくる磁場さえ分かればいいのです。
 
 では、Merrittコイルのつくる磁場を

  • 直線電流がつくる磁場を、ビオ・サバールの法則を使って求める。
  • 正方形電流がつくる磁場を、1を利用して求める。
  • Merrittコイル、すなわち4つの正方形がつくる磁場を、2を重ね合わせることで求める。

という手順で求めていきます。

手順1:直線電流がつくる磁場を求める

 画像のような、電流が線分ABをAからBへ流れているときに点\(P\)へ生じる磁場を求めます。
f:id:shitaro2012:20140311235406p:plain
この詳しい計算は、例えば

電磁気学演習 (物理テキストシリーズ 5)

電磁気学演習 (物理テキストシリーズ 5)

などに譲るとします。計算の方針は、線分上の微小部分がつくる磁場をビオ・サバールの法則により求め、線分全体に渡って足し合わせる、です。すると次のような結果が得られます:
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{B}(P)
=
\frac{\mu_{0} I}{4\pi r}
(\cos \theta_{1} - \cos \theta_{2})
\boldsymbol{e}_{\phi}
\ .
\end{eqnarray}
ここで、\( \boldsymbol{e}_{\phi}\)とは右ねじの方向であることを表しています。

手順2:正方形電流がつくる磁場を求める

 大抵の本には多角形電流(あるいは円形電流)が中心軸につくる磁場の求め方が載っています。系の対称性を利用して計算量を抑えるため、また苦労して求めるだけの価値がないからといった理由からなのでしょうか。しかし、今回は中心軸だけでなく任意の空間における磁場を求めなければなりません。とはいっても計算方法は手順1の計算結果を利用するだけで済みます。ただ、計算はすこし煩雑です*3
 完全な導出を書くにはあまりにもブログが小さいので省略しますが、計算につかったこの裏紙に書かれているように三平方の定理で導出できます。
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↑6枚つかった計算用紙の1枚。手順1と三平方の定理だけで正方形電流がつくる任意の磁場が求まります。

 計算結果は次の画像の通りになります:
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↑6枚つかった計算用紙の1枚。左側が計算結果です。ちなみに右側はプログラムに落としこむための努力の跡です。

余談:正\(n\)角形電流がつくる磁場の導出

 手順2の方法は応用が効きます。正\(n\)角形電流のつくる磁場は、手順2と同様に直線電流がつくる磁場を辺の数だけ用いるだけで求まります。今回手順2で行った計算は\(n=4\)の場合でした。また、正\(n\)角形が作る磁場を求めた後、\(n \to \infty\)という頂点の数を無限に増やす極限操作を行うことで円形電流が作る磁場に一致することも確かめられます。

手順3:Merrittコイルがつくる磁場を求める

 手順2で求めた磁場を重ね合わせるだけです。図のように一辺の長さ\(L\)の正方形コイルが同軸上に配置されているとします。ただし、コイル1,4には電流\(26I\)、コイル2,3には電流\(11I\)が流れているとします。
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 このとき点\( P(x,y,z)\)に生じる電場は、手順2の計算結果において\( z \to z \pm d_{i} \ (i=1,2) \)に変えたものを4つ重ね合わせることで得られます。

磁場の概形

 3つの手順によって得られた磁場をもとに、いよいよ本題であるシミュレーターを作成します。・・・しかし尺が足りなくなったので次回の記事に詳細を回すことにします。ここではシミュレーションの結果だけを掲載します。
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↑これは平面\(y=0\)における各点\( (x,0,z)\)に対応する\(z\)軸方向の磁場の強さを表しています。原点付近で平らになっていることが分かります。詳細は次回で。

*1:いくつかの文献を読みましたが、その名称は統一されていなかったので、この呼び方が正しいという保証はありません。

*2:「つくりやすい」ということは作業の負担や費用を減らすだけでなく、より精度の高いモノを作ることができるということにもつながります。

*3:偉い人はこのような問題を「頭ではなく身体を使う問題」と言いました。単純な計算の間に頭を休めないと身がもたないらしいです。